永遠の化学物質「PFAS」を簡単に分解する技術に光触媒を利用
本日は、環境科学の分野で注目される新しい研究成果についてです。「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS(有機フッ素化合物)*1を、光触媒を使って簡単に分解する技術を立命館大学などの方々が開発したというニュースです。
PFASとは? *1
PFASはその優れた耐久性から、水や油、熱に強い素材として、調理器具や食品包装、衣類などの日用品*2に広く使用されています。
(*2フライパン・鍋などのコーティング剤、リチウムイオン電池、ギターなどの楽器の弦、釣り糸、燃料ホース、半導体製造、太陽光パネル、雪用車両用タイヤ、防水スプレーなど)
しかし、これらの化合物は非常に分解されにくく、環境中に残り続けるため「永遠の化学物質」とも呼ばれています。そのため、PFASの処理やリサイクルは大きな課題となっています。
(フッ素樹脂など1万種以上 - PFOS・PFOA・PFHxS ストックホルム条約で規制対象)
C-F結合の切断と光触媒の役割
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C-F結合の強固さ
PFASに含まれるC-F結合は化学結合の中で最も強力な部類(約485 kJ/mol)で、一般的な酸化プロセスでは分解が非常に困難です。そのため、光触媒を利用して高エネルギーの反応種(例:ラジカルや電子)を生成し、これらを介してC-F結合を切断します。 -
酸化チタン(TiO₂)
酸化チタンは、紫外線を吸収して強力な酸化反応を引き起こす能力があるため、多くの汚染物質の分解に広く利用されています。しかし、C-F結合の切断には十分なエネルギーが必要であり、TiO₂だけでは効率が限られる場合があります。 -
硫化カドミウム(CdS)
CdSは可視光を利用できるだけでなく、生成される反応種がC-F結合に対してより効果的に作用する可能性があります。特に、CdSが発生させる特定のラジカル種や電子状態が、C-F結合の分解を促進すると考えられます。
硫化カドミウムCdSとTiO₂の特性の比較
特性 | 酸化チタン(TiO₂) | 硫化カドミウム(CdS) |
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光吸収特性 | 紫外線(波長400nm以下) | 可視光(波長400~700nm) |
反応の主なメカニズム | 強い酸化力を持つヒドロキシラジカル(•OH)を生成 | ラジカルや電子・正孔の生成(特定条件で有効) |
光触媒反応速度 | 多くの環境条件で安定して高速 | 反応条件によっては効率的 |
課題 | 紫外線が必要で、可視光利用が制限される | 自己分解や毒性など取り扱いに注意が必要 |
今回の研究成果
立命館大学らの研究チームは、PFASを光触媒で分解する技術を開発しました。この技術には次のような特徴があります:
- 熱を使わずに分解:従来は高温や強力な化学薬品が必要だったが、これを克服。
- 環境に優しい:光触媒を用いることでエネルギー消費を大幅に削減。
- フッ素と炭素の結合を効率的に切断:廃棄物をよりリサイクル可能な形に変えることが可能。
PFASは1万種類以上存在するとされており、その中には製造や使用が規制されているものも含まれます。これらを分解できる技術は、製品廃棄時の環境負荷を大幅に軽減すると期待されています。
PFASの分解は、私たちが直面する大きな環境課題の一つです。今回の研究成果をはじめ、世界中で進む科学技術の発展が、未来の地球環境を守るための重要な要素になるでしょう。
当社も、環境に優しい製品の開発や技術の普及に貢献してまいります。